日比谷税理士法人

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リストリクテッドストックの諸制度

2018.06.28

会計税務

我が国における企業の役員報酬は、欧米に比較して現金による固定報酬比率が依然として高い(日本59%、英国27%、米国11%「タワーズワトソンの研究会発表資料より」)といわれておりますが、昨今のコーポレートガバナンス・コードの施行に伴って、株主目線の経営を促す目的で「インセンティブ報酬」の導入を図っている企業をよく目にするようになりました。

インセンティブ報酬のひとつであるストックオプション制度は、我が国において、従来より体系が整備されていたのに対して、「リストリクテッドストック(RS)またはパフォーマンスシェア(PS)」は、ストックオプション制度に比較して体系が整理されていませんでした。しかしH28年度の税制改正などを受けて特定譲渡制限付株式という扱いで税法や、あるいは会社法上の枠組みが整理され、リストリクテッドストックを導入する企業が増えてきております。

 

【リストリクテッドストックの意義】

リストリクテッドストックとは、一定期間譲渡制限の付された(その株式の売却が禁止されている)株式を報酬として付与するものをいいます。そして株式を交付してからの勤務期間が一定期間を超えること(勤務条件)や、業績達成(業績条件)を条件にその株式の譲渡制限が解除され、交付を受けた者は、その株式を自由に売却して金銭を得ることができるようになります。また、リストリクテッドストックは、勤務条件や業績条件を達成できなかった場合、法人に無償で没収される条件が付されることとなります。

(※パフォーマンスシェアとは、リストリクテッドストックに業績条件が付与されたものをいいます)

(※完全支配子会社の役員に対して、親会社の株式を給付することでも認められております)

 

【会社法上の整理】

我が国の会社法において、無償で株式を発行することはできません。そのため、何かしらの財産を出資する必要があります。しかし、金銭以外を出資する現物出資の場合、その現物財産の価額の評価が求められるため、評価することのできない労働を現物出資財産とすることは、法律上できないこととなります。そのため、株式を報酬として交付する場合、「労働の対価として役員が得る報酬債権をもって現物出資する」という立て付けで、法律上は整理されております。

 

【所得税法上の整理】

役員が受け取ったリストリクテッドストックについては、譲渡制限期間中の売却が制限され、加えて条件が未達成の場合、その株式が没収される可能性があります。そのため、所得税の課税時期は、株式が交付された時ではなく、譲渡制限が解除された時に、給与課税されることとなります。なお、譲渡制限株式の交付に先立って付与される報酬債権には、課税関係は生じません。また所得税上、収入金額として算入される金額は、譲渡制限が解除された時における株式の価格をもって計算されることとなります。さらに、給与課税された場合、その金額に対応する源泉については、法人が源泉徴収義務者となる必要があります。

 

【法人税法上の整理】

1.法人税法上の役員給与の扱い

その株式の交付が、「株式交付等のスケジュールに係る要件」を満たせば、届出が不要となる「事前確定届出給与」として、法人の損金の額に算入することができます。そのため、職務執行開始当初(原則、定時株主総会の日)に、一括して報酬額(現物出資する報酬債権額)を確定し、それを現物出資し、株式を交付するという段取りが必要となり、例えば職務執行開始当初から一定期間経過後に、報酬額を決定するなどの場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなります。

 

2.損金算入時期について

法人の所得の計算上、損金の算入時期は、給与課税と平仄を合わせるため、株式の譲渡制限が解除され時点で計算することとなります。ただし、所得税の取り扱いと異なり、損金に算入する金額は、原則として、その譲渡制限が解除された株式の交付と引き換えに、その役員より現物出資された報酬債権の金額となるため、役員が給与課税される金額と、法人の損金算入額に相違が生じる可能性があります。また条件の未達成による無償取得や非居住者である役員に対する株式の譲渡制限の解除については、法人の損金には算入されません(※非居住者に対する株式の譲渡制限の解除に係る所得は給与所得とされないため)。

 

【会計上の整理】

法人が株式を交付した時点においては、前払費用等(貸方は資本勘定)で処理することが想定されます。その後、設定されている条件に応じて合理的に、前払費用等を株式報酬費用等の費用勘定にて処理(たとえば4年の勤務条件なら4年で費用化)することとなります。なお、前述の通り、法人における損金算入時期が条件達成に伴う譲渡制限解除の時であるため、それまでの期間に、会計上費用化した金額は、別表調整が必要になります。また辞任などで法人が株式を無償取得の場合は、前払費用等を一時に損失処理し、税務上は損金を否認する必要があります。

 

【株式交付等のスケジュール】

一般的な取締役会設置会社における特定譲渡制限株式の交付スケジュールとしては、以下の流れが想定されます。

  1. 定時株主総会にて役員の確定額報酬について決議
  2. 取締役会にて役員個別の金銭報酬債権の付与の決議(債権額の決定)
  3. 第三者割当の決議(発行条件等)
  4. 利益相反や割当契約に関する承認

 

なお2.は1.より1か月を経過する日までの開催が必要となり、また2.で決定する報酬債権額と、3.で確定する払込金額は、一致させる必要がありますので、同日開催とする等、金額が不一致となる事態を回避する手立てが必要となります。さらに、割当契約が重要な業務の執行として取締役会の承認が必要となるような場合には、4.を3.と合わせて開催が必要となるため、実務上は2.3.4.を同時に実施することが想定されます。最後に譲渡制限や無償取得条項を設定する方法としては、種類株式を用いる他、法人と役員との契約において制限することも想定されます。

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