日比谷税理士法人

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民事信託に係る課税関係

2020.11.19

会計税務

【概要】

昨今クライアント先において、リタイアメント後の財産管理や、その先の相続の見据えて、民事信託(いわゆる家族信託®と呼称されるもの)の導入可能性を弁護士に相談されている案件が増えております。

【民事信託とは】

まず「信託」とは、財産を持っている人自身(委託者)が、自身が信頼できる人(受託者)に財産を託して、自身が定めた目的に沿って、自身が利益を与えたいと思う人(受益者)のため、財産の管理、処分をしてもらう仕組みを言います。

「民事信託」とは、この信託の仕組みを利用して、自分の老後に必要な資金の管理や給付、あるいは意図した相続を実現することを目的に、財産を信頼できる家族等に託して、その管理等を任せる仕組みを言います。

【税務】

信託税制は信託の類型により扱いが異なりますが、基本的には「受益者等課税信託」という考え方を採用します。受益者等課税信託は、現実の財産の所有者である受託者ではなく、利益を享受する権利たる受益権を有する受益者に対して課税するという考えを採用しております。

受益者等課税信託において、受益者に対して課税関係が発生する場面は大別すると4つになります。①信託の設定時、②信託の期間中、③信託の終了時、それとイレギュラーな場面として④受益権が移転した時となります。

一方で、民事信託の場合、受益者が存在しない信託を設計する場合があります(例えば、まだ生まれてきていない孫を受益者として設定する場合など)。その場合、受益者がまだ存在しないため、受益者への課税ができません。このような信託の場合、税法は課税関係を転換させて、法律上の財産の所有者である受託者に対して、課税関係を発生させる「法人課税信託」という制度を採用しております。

この法人課税信託においては、受託者が個人であったとしても、受託者に対して法人税を課すというものです。従って、法人課税信託に該当した場合は、個人であっても税務署に対して、法人設立届の提出など諸手続が必要となります。

【受益者連続型信託】

民法において、所有権に制限をつけることが基本できません。例えば、甲は自身の死亡時点でその財産を乙へ移転させて、その後「乙が死亡したら、それを丙に移転させる」という制約を付して乙へ遺贈することは、民法の原則からは認められません。あくまで乙の得た財産の処分権は乙が有するものであるため、甲がそれに制約をかけることはできません。そのため、相続などにおいて、この点で悩まれている方も多くいらっしゃいます。

この点、財産を信託化した受益権は直接財産と異なり、所有権に制約をかけることができるため、第一受益者(乙)の死亡を契機に、その受益権の帰属先を後継ぎ受益者(丙)と指定するなど、直接財産では実現できなかった財産の承継が可能となります。

ただし非常に優れた点がある一方で、相続税上の評価の問題(受益者連続型信託の特例)や、遺留分の侵害(第二次受益者の遺留分計算の基礎となるか)など、信託の設計にあたり考慮すべき点が多いのも事実です。また受託者が営利目的で行う場合は、当然信託業法の免許が必要であるため、民事信託においては営利を目的としない、親族などを受託者とするなどの対応が必要となります。

これらの観点より、民事信託の導入に際しては、専門家を巻き込んでの検討が必要となるかと思います。

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